スーパービジョンの重要性は従来から多くの実践家・研究者が指摘し、近年ではケアマネジャーの成長においても注目度が高まっています。
主任介護支援専門員の研修においてもスーパービジョンを学びますが、スーパーバイズの概念を学ぶことはできても、スーパービジョンのスキルを十分に習得できるまでの時間は確保されていません。
法廷研修のみをもってスーパーバイザー(以下バイザー)を要請することは、不可能に近いとも感じられます。
しかしスーパービジョンは、ケアマネジャーをはじめとした対人援助職にとって、「自分の知識・スキルの基盤をそれぞれ固有の環境・特性をもつクライエントに合わせて応用できる有効な手法」であることは明白です
つまりスーパービジョンの質を高めることが、「対人援助職のエキスパートに成長するための最も効果的な手法」と言っても過言ではありません。
この記事では、「現実的かつ本質を見失わないスーパービジョンはどうしたら展開できるのか」について詳しくお伝えしていきます。
最後までご覧ください。
スーパービジョンの理想
スーパービジョンの経験がある人もない人も、「スーパービジョンとはどのようなものなのだろうか?」と考えながら、以下のエピソードを読んでみましょう。
いかがでしょうか?
このエピソードを読んで「わたしもこれに近いようなスーパービジョンを受けていた」と感じた方は、非常に恵まれた環境にあると言えます。
実際のところ「こんな素晴らしい職場はどこにあるのだろうか?」と感じた方が多いのではないでしょうか。
このエピソードはあくまでも「スーパービジョンの理想の形」と言えます。
わたし自身も①~⑥のすべてをバイジーとして受けた経験はありませんし、現在バイザーとしても実践できてはいません・・・。
>>ケアマネジャーを目指すべきか迷っている人は必見!ケアマネジャーの仕事内容と魅力について徹底解説
現実で可能な最善策を考える
対人援助職として経験を積んだ役職者や管理者には、バイジーの役割を担うことが期待されます。
しかし管理職として、「管理的機能」を果たすことで精一杯となっていることも少なくないでしょう。
スーパービジョンには「管理的機能」「教育的機能」「支持的機能」の3つがあります。
このなかの「管理的機能」は、バイジーが組織内で適切な役割遂行ができるようにすること」が目的で、「組織のルールや実践の方法をきちんとバイジーに教えること」や「バイジーの生産性と組織の生産性両方のバランスを図ること」といった内容が含まれています。
しかし「管理的機能」に偏ってしまうと、バイジーが援助基盤の応用法を学びながら成長し、仕事に意欲を持ち続けるための「教育的機能」「支持的機能」を果たす時間は取りづらくなります。
また「教育的機能」「支持的機能」の一つである「燃え尽き症候群を予防する効果」も薄れることで、離職に繋がることにもなりかねません。
このような現実問題により、理想のスーパービジョンを実現することは難しいと考えられています。
スーパービジョンで欠かせない要素
たとえスーパービジョンを理想の形で実践できていなくても、「スーパービジョンに不可欠な要素」をしっかりと取り入れることができれば、理想の形に準ずる成果が期待できます。
「スーパービジョンに欠かせない要素」はたくさんありますが、そのなかでも特に重要と言える要素を3つに絞り解説していきます。
1.バイザーとバイジーの関係性と契約
対人援助職が利用者との間で信頼関係を築いていくことが大切なのと同じように、スーパービジョンでもバイザーとバイジー間の関係性は重要です。
バイジーが「わたしのバイザーは信頼できる」と思えていなければ、自分の実践内容を素直に話せません。
では信頼関係に基づく「良い関係」とは、どのようにしたらできるのでしょうか。
バイジーの欠点を指摘するだけでは関係性がぎくしゃくし、バイジーの成長は阻害されてしまいます。
また反対に、称賛し続けるだけではバイジーの成長は止まってしまいます。
そしてバイザー自身の成長も期待できません。
つまり良い関係(適切な関係)とは、「必要な称賛と建設的なフィードバック双方のやり取りができる関係」だと言えるのです。
真の成長を目指している時には、自分の弱さと向き合うことも必要になります。
そして良い関係を保つためには「何を目指してスーパービジョンを行うのか」「スーパービジョンはどのように進められるのか」などに関して、両者の間でルールが合意されていなければいけません。
できれば、契約書のような形にしておくことが望ましいとされています。
スーパービジョンの「契約書に最低限盛り込む内容」は以下の通りです。
このような内容の取り決めを文章で交換しておくことによって、期待の不一致やその後の問題を回避することができるといわれています。
逆に契約内容を曖昧にすれば、バイザーとバイジーの「期待・境界・目的」が異なってしまいます。
2.バイザーとバイジーが「共に成長していくプロセス」としての認識
スーパービジョンに関する誤解の一つに「スーパーバイザーは完璧で、すべての答えをもっていなければならない」というものがあるようです。
もちろんバイザーは十分な実践経験があり、教え方・伝え方のバリエーションを含めたスーパービジョン実施に必要不可欠な知識やスキルを持ち、それらをバイジーの力量に合わせて適切に応用する必要があります。
しかしこれは、バイザーが「完璧で必ずいつもバイジーの抱える問題に対する答えをもっている」ということを意味するわけではありません。
スーパービジョンはバイザーとバイジーによる「共同作業」です。
バイジーもバイザーも「共に成長するプロセス」であると認識する必要があります。
つまり「バイジーはバイザーに過剰な期待をしてはいけない」「バイジーもしっかり自分の責任をはたさなければいけない」ということです。
少しくどい言い回しとなりますが、「バイザーはバイジーの成長のためにバイジーが抱えている課題を共に振り返り、問題解決に必要な情報を探求し、解決の道筋にはどのようなものがあるのかについて、いくつかの仮説を考えだす」といった表現が適切かもしれません。
バイザーの成長に必要なこと
わかりやすくするために、「バイザーの成長に必要なこと」を10項目にまとめてみました。
ここで少しだけ、項目ごとのポイントを解説します。
スーパービジョンの成長を3段階で考える
さらにスーパービジョンには、バイジーの成長段階に合わせて行う必要があります。
なぜならば、バイジーの成長段階によって強調する点が異なるからです。
考えられる「成長段階」は下記の3段階となります。
「自身の関わるバイジーがどの段階なのか」をイメージすることで、より効果的なスーパービジョンとなるでしょう。
3.スーパービジョンにおけるアセスメントに関する話し合いの重要性
スーパービジョンではバイジーの実践内容について、さまざまな側面から話し合いを行いますが、なかでも「クライエントに何が起きているのか、問題の背景に何があるのかの理解を深めていく」というアセスメントは非常に重要で、比重が大きくなります。
ここでは「アセスメントの役割と内容」と「アセスメントの話し合いで必要なこと」に分けてお伝えします。
アセスメントの役割と内容
アセスメントは対人援助の心臓部分であり、単独で成立するものではありません。
対人援助職がクライエントに対して支援をする際の一部です。
アセスメントのプロセスを通して、信頼される援助的関係の基礎を作るのです。
さらに言うと、アセスメントとは「ただ単にクライエントから情報を入手すること」を意味するのではありません。
「クライエントの抱えている問題解決に役立つような情報を見つけ出すこと」と並行し、「クライエント自身が抱くさまざまな感情を理解すること」に努めます。
そのうえで、「クライエントが置かれている状況をどのようにして改善できるのか」をクライエントと共に真剣に考え、関わっていくプロセス全体がアセスメントなのです。
アセスメントについての話し合いの中で必要なこと
わかりやすくするために、「アセスメントについての話し合いの中で必要なこと」を6項目にまとめてみました。
ここで注目してほしいのは、「どのように」という「具体性・事実を伴ったプロセス報告」の重要性が協調されているということです。
>>ケアマネジャーを目指すべきか迷っている人は必見!ケアマネジャーの仕事内容と魅力について徹底解説
まとめ
「現実的かつ本質を見失わないスーパービジョン」について、理解が深まったでしょうか。
繰り返しになりますが、理想のスーパービジョンを実現することは簡単ではありません。
しかし「スーパービジョンに不可欠な要素」をしっかりと取り入れることができれば、理想の形に準ずる成果が期待できます。
この記事が「みなさんの職場における最善のスーパービジョン」を考えるきっかけとなれば幸いです。
スーパービジョンの質を高め、「対人援助職のエキスパート」になろう。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。