実践に繋げよう!高齢者施設における認知症高齢者の意思決定支援ポイント4選

てんぱまる
この記事の著者
業界20年目になる特養の施設長。
地域密着型サービス外部評価調査員・実務者研修講師としても活動中。
保有資格はすべて一発合格。

【保有資格】
社会福祉士/介護福祉士/保育士/幼稚園教諭二種免許状/公認心理師/第一種衛生管理者/主任介護支援専門員

マルチーズが大好き。

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てんぱまる
てんぱまる

みなさんどうもこんにちは。

元介護士で、現役ソーシャルワーカー×心理師の「てんぱまる@tenpa_mal」です。

みなさんは「アドバンス・ケア・プランニング:ACP」を知っていますか?

施設入所時に家族へ尋ねますが、「知っている」と応える方はほとんどおらず、まだまだ普及していないと感じています。

日本老年医学会の「アドバンス・ケア・プランニング(Advance Care Pllanning:ACP)推進に関する提言(2019)」では、「ACPは将来の医療・ケアについて、本人を人として尊重した意思決定の実現を支援するプロセス」と定義しています。

厚生労働省はACPの愛称を「人生会議」と名付けています。

私たちのように意思を伝えることができる者だけではなく、認知症などで意思決定が困難となった場合でも本人の意思を汲み取り、本人が望む医療・ケアを受けることができることの重要性とその支援が述べられています。

高齢者施設では、重度の認知症で言語によるコミュニケーション能力が低下していることから、本人の意思を確認できないケースが多くあります。

そのようなケースでは一方的に意思決定能力がないとみなされ、家族が最期の治療やケアを判断する傾向にあるのです。

この記事では、高齢者施設における認知症高齢者などに対し、意思決定支援を行うために大切なポイントをお伝えしていきます

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目次

結論

まず結論からお伝えすると、認知症高齢者などに対し意思決定支援を行うために大切なポイントは下記の4つとなります。

  1. 本人に対する支援
  2. 家族に対する支援
  3. 多職種協働・連携
  4. 施設による取り組み

各ポイントの説明に移る前に、まずは大前提として理解して欲しい内容がいくつかありますので、紹介していきます。

認知症高齢者などの意思決定支援における3つの方針

実際に認知症高齢者などの意思決定支援を行う際は、下記3つの方針が前提条件となるため、理解しておきましょう。

3つの方針
  1. 認知症高齢者などは言語によるコミュニケーション能力の低下に関係し、外観からは意思を持っていないように見えますが、実際には自分の価値観や意思を持つ、私たちと同じひとりの人であることを認識する必要があります。
  2. 認知症高齢者などは提供されるケア内容や生活環境が「自分の意思と合っていない」ケースでは、認知症の行動・心理症状(BPSD)という形で意思を表現することがあるため、日常生活における意思決定支援やBPSDを予防するケアの延長線上が「人生会議」だと捉える必要があります。
  3. 意思決定支援者は認知症の段階や、その人の認知機能に合わせた意思の形成・表明・実現のためのコミュニケーション技術を習得する必要があります。

認知症高齢者などにも一人ひとりの物語(ナラティヴ)があり、独自の価値観や意思を持っています。

私たちスタッフは、認知機能障害に影響して起こりうる行動を理解しうまく言葉に表現できない場合には、本人の意思を引き出しす支援が求められます

認知症高齢者の重度別コミュニケーションの特徴

続いて重度別にコミュニケーションの特徴を整理して、理解しておく必要があります。

軽度認知症高齢者

その人がわかりやすい言葉で使用することで、言語によるコミュニケーションが可能です。

ただし、記憶に留めておくことが苦手であるため、覚えて欲しいことはメモ帳や紙に書いて渡すと良いでしょう。

中等度認知症高齢者

普段使用している言葉でゆっくりと話したり、理解しているか確認しながら話せば、言語によるコミュニケーションが可能です。

簡単な二択であれば、意思を示すことができる人が多いでしょう。

覚えておいて欲しいことは、本人に了解を得て目につく場所へ掲示することで、見て思い出すことができます。

感情のコントロールが苦手で、伝えたい内容よりも感情が先になり、原因をうまく表現できないことがあります。

同じ言葉・態度・行動(家に帰りたい・急に怒るなど)が続く場合には、その原因(居場所がない・寂しい・不安など)を解決できるようなケアを考えましょう。

痛みが原因の場合は適切な医療が受けられるよう看護職・医師と連携していきましょう。

重度認知症高齢者

言語によるコミュニケーションは限定されますが、非言語によるコミュニケーション(表情・仕草・行動など)を本人の気持ちとして捉え、意思を汲み取ろうとする意識をもちましょう

ケアスタッフも非言語によるコミュニケーション(アイコンタクト・タッチング・笑顔など)を意識して活用するなど、日頃から「人生会議(ACP)」の概念を意識してコミュニケーションをとることが求められます。

私の勤める特養の2/3以上の利用者が、この重度認知症高齢者に当てはまります。

「人生会議(ACP)」の概念を意識した非言語によるコミュニケーションの重要性を肌で感じています

認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン

厚生労働省の「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン(2018)」では、介護・看護職による認知症高齢者に対する意思決定能力があることを前提としたケアや残存機能を引き出す丁寧な支援の必要性が推奨されています。

意思決定支援には下記3つのプロセスがあります。

  1. 意思形成支援
  2. 意思表明支援
  3. 意思実現支援

本人の意思決定能力を適切に評価しながら、適切なプロセスを踏むことが重要です。

それぞれの支援内容と関係について、わかりやすく表したのが下記の図です。

図1 認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援
参考:厚生労働省(2018)「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン」

「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン」の詳細については、こちらをご覧ください。

高齢者施設における認知症高齢者などに関する意思決定支援

高齢者施設における認知症高齢者などの「人生会議(ACP)」では、「日常生活に関する意思決定支援」を重ねることが「人生の最終段階の意思決定支援」に繋がります

「人生会議」は、ケアや治療の内容を決めることが目的ではなく、家族やスタッフと最期までいかに生ききるかについて対話する場所であり、本人の生活の質(QOL)を高めていくことにも繋がります。

図2 認知症高齢者などの人生会議(ACP)=日常生活に関する意思決定支援+人生の最終段階の意思決定支援

よって、認知症高齢者などに対して「人生会議」を行う際は、私たちスタッフの対話(コミュニケーション)技術が意思決定支援に影響します。

高齢者施設における認知症高齢者の意思決定支援を行うためのポイント

では本題である4つのポイントについて、詳しくご説明します。

  1. 本人に対する支援
  2. 家族に対する支援
  3. 多職種協働・連携
  4. 施設による取り組み

1.本人に対する支援

  • 本人が意思の疎通ができる段階では、言語によるコミュニケーションで本人と信頼関係を築き、日常生活や人生の最終段階における希望や意思を確認していきましょう。
    好きな食べもの、思い出の場所、仲の良かった人」から掘り下げると実際のケア(意思実現支援)に繋げやすくなります
    施設入所時に確認しておくことで、「あの時は〇〇と言っていたけど、今はどうですか?」などと、その後の対話が圧倒的にしやすくなります。
  • 本人の意思疎通が難しい段階では、非言語によるコミュニケーションで希望や意思を引き出し、認知症の段階に合わせて対応しましょう。
    表情、仕草、行動から本人の意思を推定しましょう
    生活歴や価値観に配慮しましょう
    入所後の関わりを通して、本人の想いを想像しましょう
    ※認知症の行動・心理症状(BPSD)へと繋がってしまうことを防ぐため、本人の意思が尊重されているかどうか、都度確認しましょう。
  • 日々の生活の中で人生の最終段階に向かう本人の微細な変化を捉えましょう。
    ※食事量・排泄周期・呼吸状態・会話の内容や状況などに注視しましょう。
  • 意思は変化することから、その都度状況の変化に応じて確認しましょう。
  • 希望が叶えられない場合には代替え案を提案するなど、家族と一緒に話し合いを行いましょう。
  • 意思を表明した時には、記録に日付やその時の状況を記載しておきましょう。

2.家族に対する支援

  • 家族へ認知症があっても本人の意思を尊重する姿勢を持ってもらいましょう。
  • 人生の最期について意思確認できるもの(リビングウィル)や元気な頃に本人と話し合った事がないか確認しましょう。
  • 家族が代弁する場面が多くなることを想定し、施設入所時など早い段階から家族の意思を確認しましょう。
    食べさせたいもの(好きな食べもの)、行かせたい場所(思い出の場所)、会わせたい人(仲の良かった人)から掘り下げると実際のケア(意思実現支援)に繋がります
  • 本人と家族の意思に相違がないか確認し、異なる場合には時間を掛けて対話を繰り返していきましょう。
  • 本人の体調に変化があった際はなるべく細やかに電話連絡し、リスク(命を落とす可能性)を共有することで、人生の最終段階の意思を確認する機会に繋げましょう。
    ※特に遠方に在住してるなどの理由により、対面による対話が叶わない時も効果的です。
  • 家族の意思は変化することから、その都度状況の変化に応じて確認しましょう。
  • 希望が叶えられない場合には代替え案を提案するなど、本人と一緒に話し合いを行いましょう。
  • 意思を表明した時には、記録に日付やその時の状況を記載しておきましょう。

3.多職種協働・連携

  • 多職種(介護職・看護職・リハビリスタッフ・栄養士・相談員・ケアマネジャーなど)から本人の情報を得て、共有しましょう。
  • 本人の生活歴や価値観について家族へ尋ね、多職種で共有しましょう。
    ※家族しか知り得ない情報があるため、積極的に尋ねましょう。
  • それぞれ専門職の立場から、「意思形成支援」「意思表出支援」「意思実現支援」を共有し、多職種で意思決定支援を行いましょう。
  • 本人が言語によるコミュニケーションができない場合は、本人の反応を確認しながら家族と一緒に時間を掛けて意思を推定しましょう。
  • 「本人にとって何が最善であるか」について、家族と本人に関わるすべてのスタッフと十分に話し合い、本人にとって最善の方法を考えましょう。
  • 本人や家族の希望に対し、多職種で役割を決めてケアを協働しましょう。
    希望が現実的なものか話し合いましょう。
  • 家族に判断のすべてを委ねるのではなく、ケアスタッフも一緒に考えて、話し合いのプロセスを重視しましょう
  • 時間の経過、心身の状態の変化に応じて、このプロセスを繰り返し行います

4.施設による取り組み

  • 意思決定支援や看取りに関する委員会を立ち上げ、話し合いの機会が多く持てるよう工夫しましょう。
  • 意思決定支援や看取りに関する研修・カンファレンスを行い、専門的知識・技術の習得に繋げましましょう。
  • 「看取り介護加算」などの取得要件を満たすことで運営基盤を構築し、指針や体制を整えるなど看取りの質の向上へ繋げましょう。
  • 看取り後のグリーフケア(お別れ会、お見送り会、葬儀)・デスカンファレンスなど、意思決定支援や看取りに関する振り返りの機会を設け死生観の醸成に繋げましょう。
  • 高齢者施設だけではなく、地域の関係機関(行政・地域包括支援センター・医療機関・介護サービス事業所など)や専門職、地域住民(町会長・民生委員など)との情報交換や連携も行いましょう。

おわりに

特に私の勤める施設は特養で、入所要件が「要介護3以上」であるといった理由からも、入所する時点で本人の意思決定が難しい方が大多数を占めています

そのため「元気なうちに」といったような、事前に意思確認を行うことすら難しいのです。

重度の認知症高齢者などは、人生の最終段階が突然やって来ます

日常生活と切り離さず意思決定を反映させるなど、人生の最終段階の本人の希望に関して、「意思形成支援」、「意思表明支援」、「意思実現支援」を連続して繰り返し行うことが求められます。

この記事をきっかけに意思決定支援のポイントと「人生会議(ACP)」の普及に繋がって欲しいと願います。

最後までご覧いただき、ありがとうございました。

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