これで慌てない!事故発生時に必要な生活相談員の対応手順と方法

てんぱまる
この記事の著者
業界20年目になる特養の施設長。
地域密着型サービス外部評価調査員・実務者研修講師としても活動中。
保有資格はすべて一発合格。

【保有資格】
社会福祉士/介護福祉士/保育士/幼稚園教諭二種免許状/公認心理師/第一種衛生管理者/主任介護支援専門員

マルチーズが大好き。

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てんぱまる
てんぱまる

みなさんどうもこんにちは。

元介護士で、現役ソーシャルワーカー×心理師の「てんぱまる@tenpa_mal」です。

特別養護老人ホーム(以下特養)やデイサービスなどの事業所においては、事故(転倒・転落・誤嚥・誤薬)などによる怪我(打撲・骨折等)や体調変化が起こり得ます。

特に、特養のように介護量が多く、限られた人数で、多くの利用者をケアしている事業所では、全ての利用者を100%安全に見守ることは困難で、事故を防ぎきることはできません

しかし、利用者家族の立場から考えると、信頼して預けている事業所で事故が起こってしまった場合に、少なからず不信感を持ったり、疑問を感じたりするのは当然です

場合によっては、損害賠償を請求されたり、裁判になったりするケースもあります。

このような状況へ陥るのを防ぐため、家族や関係者へアプローチするのが、生活相談員の役割となります。

いざ事故が発生し、家族へアプローチするとなっても、「頭が真っ白になった」「何から伝えたら良いか分からない」「怒られたらどうしよう」というネガティブな感情が先に立ち、「上手くアプローチできない」と悩んでいる方も少なくないでしょう。

この記事では、私の生活相談員としての経験を踏まえて、事故発生時も慌てないための対応手順と方法について、丁寧にお伝えしていきます。

目次

利用者の安全確保と事実確認

事故が発生した場合、まず最初に行われるべき対応は「利用者の安全確保」です

医療職へ指示を仰ぎ、必要な救命措置を行いましょう。

事故発生後、迅速かつ適切な安全確保を行うことは、利用者への健康被害を最小限に抑えることに繋がります。

また、迅速に対応することで、事実が曖昧になってしまったり、家族の不信感を強めてしまうリスクも減らすことができます。

「利用者の安全確保」と同時に行われるべき対応は「事実確認」です。

事故発生時の状況や場所などについて、正確な「事実確認」を行う必要があります。

ここで注意する点は、あくまで「事実確認」であり、「犯人探し」ではないということです。

事故が発生してしまうと、誰もが不安な気持ちになります。

特に当事者(発見者)は気が動転し、心配な気持ちでいっぱいになっています。

そのような状況下において、「どうしてきちんと見てなかったの?」「誰の担当する時間だったの?」「予測はできなかったの?」などと、責任の所在を問い詰めても、意味がありません。

「犯人にされたくない」「どう伝えたら良いかわからない」という気持ちの中では、正確な情報を得ることができないからです。

生活相談員は、当事者(発見者)のみならず、その場に関わった職員に対し、可能な限りゆっくりと落ち着いた口調で「事実確認」を行う必要があります。

「事実確認するポイント」は、下記の5つとなります。

  1. 怪我の程度
    受傷部位、痛みの有無、予後予測(悪化のリスク)などを確認します。
  2. 病院受診の必要性
    病院受診が必要となった場合は、病院の場所と名前などを確認します。
  3. いつ
    分かるようであれば、〇時〇分と正確な時間を確認します。
  4. どこで
    ただ単に「居室」だけではなく「居室の入口」「居室のベッド脇」など、より詳細な場所を確認します。
  5. どのような状況か
    「転倒していた」だけではなく「右半身を下にし、居室のベッド脇で倒れていた」「靴は右片方が脱げている状態で、車椅子のブレーキは掛かっていなかった」「本人から『トイレに行こうと思って』と話が聞かれた」などと、より具体的な状態を確認します

    時系列に整理し、内容をまとめておくのが良いでしょう。

家族への電話連絡

「事実確認」ができたら、次に「家族への電話連絡」を行います。

ポイントは、下記の2つとなります。

  1. 事実確認したポイントの重要度を意識する
    「事実確認したポイント」で一番重要度なのは「1.怪我の程度」です。

    特に注意したいのは、「1~4よりも先に『5.どのように』を伝えてしまわないこと」です。

    なぜなら、「5.どのような状況か」を先に伝えてしまうと事実が的確に伝わらない」「不安や心配を煽る」「言い訳がましく聞こえる」といった可能性が高くなってしまうからです

    よって、「5.どのような状況か」は対話のなかで家族に問われた場合に留め、「1.〜4..を伝えた後に余裕があったら」という心持ちでいるのが良いでしょう。
  2. 必ず謝罪する
    「丁寧に」「ゆっくりと」「心を込めて」謝罪します。

    「事業所側に責任・過失があるかないかに関わらず、利用者本人に痛い(辛い)思いをさせてしまったこと」「家族にご心配とご迷惑を掛けてしまったこと」に対する謝罪です

    事業所側に責任や過失が「ある」・「ない」ということではなく、誠意ある対応、利用者や家族に寄り添った対応を心掛けることが必要です。

    ただし謝罪の際に、事業所側の「安全配慮義務違反」を認めるかのような発言(たとえば、「十分な転倒防止策を実施できていませんでした」などの発言)をしてしまうと、法的責任を認めたと誤解される恐れもあるため、慎重な対応が求められます。

電話連絡の具体例

それでは、これまでのポイントを踏まえ、電話連絡の具体例を見てみましょう。

生活相談員
生活相談員

特別養護老人ホーム○○の□□です。お忙しいところ失礼致します。

△△様(本人)ですが、本日■■頃(時間)、××(場所)で転倒されているところを発見したため、現在の状況についてご報告したく、ご連絡差し上げました。

右の太もも周辺に腫れがあり、少し動かすだけでも強く痛みを訴えている状況です。

骨折の可能性もあることから、●●病院へ受診をさせて頂きたいと思います。

この度は、△△様(本人)へ苦痛を与え、◎◎様(家族)へご心配をお掛けする結果となり、誠に申し訳ございません。心よりお詫び申し上げます。

家族が理解を示すケー

家族
家族

こちらこそ、ご迷惑をお掛けしてすみません。

一人で動いてしまうから、仕方ないと思います。わざわざ、連絡ありがとうございます。

といった内容の返答であれば「事故のリスクがあること」「施設がきちんと対応してくれていること」に対し、一定の理解を示してくれていると考えられます。

生活相談員
生活相談員

恐れ入ります。骨折などで手術や入院などが必要となる場合、◎◎様(家族)にも病院へ来ていただく必要があります。

受診の結果につきまして、再度こちらから連絡をさせて頂きますので、もうしばらくお待ちいただくようお願い致します。

改めまして、この度は、ご不安とご心配をお掛けし、大変申し訳ありませんでした。失礼致します。

といった内容の対応になります。

家族が納得されないケース

家族
家族

どうしてそんな事になったんですか!?

きちんと見ていなかったんじゃありませんか?きちんと状況を説明して下さい!

このような返答があった場合、家族は感情的になっている状況と考えられます。無理に収めようとすると、かえって逆効果になります。このような場合は、「事実確認」で把握した「1.~4.」に加えて、「5.どのような状況か」をお伝えします

生活相談員
生活相談員

右半身を下にし、居室のベッド脇で倒れていました。

靴は右片方が脱げている状態で、車椅子のブレーキは掛かっておりませんでした。

ご本人は「トイレに行きたかった」とお話されていましたので、自身でどうにかトイレに行こうとされたようです。

つい30分前に一度トイレへお連れしたばかりであったこともあり、私たちもすぐに気づくことができませんでした。

上記のように、家族が事故の状況をイメージしやすいようお伝えします。相手の感情的な言葉や強い口調に対し、自分自身も話す声が大きくなったり、早くなったりしてしまうことから、ゆっくりと冷静に話すことが求められます。

今回のようなケースでは「利用者自身の意思で行動したこと」「事業所側が常に本人を見守りできる状況ではないこと(事故のリスクはゼロにできないこと)」の2点が伝わるよう意識すると良いでしょう

電話報告だけでは家族の気持ちが収まらないケース

家族
家族

どうして事故が起きたのか理解できません。もう少し詳しく教えて下さい!

責任はどのようにとってくれるのですか?責任者と話をさせて下さい!

電話報告で家族の気持ちが収まらない場合では、さらに理屈を並べても、解決には繋がりません。このような場合は、家族の気持ちを押さえつけるような発言は控え、この先の段取りについて説明するに留めます

再度連絡させて頂くことをお伝えし、「対面によるコミュニケーション」の場面において、改めてアプローチすることをイメージしておきましょう。

生活相談員
生活相談員

ご心配とご迷惑をお掛けして、大変申し訳ありません。

現状でお伝えできる内容は以上となります。

病院受診を対応させて頂き、また改めて結果をご連絡致します。

手術や入院等が必要になる場合、ご家族にも病院へ来ていただく必要があります。

受診の結果と併せて、改めてお願いのご連絡を差し上げます。

大変申し訳ありませんが宜しくお願い致します。

といった内容で、一度電話を終えましょう。

管理者(施設長・所長など)への報告

管理者へ「事故発生の事実」と「家族へ電話連絡した際の反応」などについて、報告を行います。

管理者への報告は、その都度細やかに行うことをお勧めします。

なぜなら「現時点の判断に誤りはないかの確認」や「今後の手順や方法のアドバイス」を貰うことができるからです。

また、一人で進めて視野が狭くなり、判断を誤ってしまう可能性を減らすことができます。

さらに、「個人ではなく組織」として対応することの意識づけにもなります。

特に「電話報告だけでは家族の気持ちが収まらないケース 」においては、管理者と協働で対応することも想定する必要があるため、とても重要な手順となります。

忘れずにしっかりと報告するようにしましょう。

病院受診の同行

病院受診が必要となり、家族も受診に付き添う場合は、可能な限り生活相談員が病院受診へ同行しましょう。

「対面によるコミュニケーション」により、家族の表情・仕草・言葉のニュアンスなどを汲み取ることができ、より効果的なアプローチとなります。

特に「家族の気持ちが収まらない場合」においては、生活相談員が同行し、「対面によるコミュニケーション(謝罪を含む)」にて対応することが必要です。

また、受診結果によっては、保険請求の話題となる場合もあるため、生活相談員がその場にいることで、スムーズな対応が可能です。

電話越しでは感情的であった家族も、「対面によるコミュニケーション」により、誠意をもって対応することで気持ちが収まり、理解を示してくれる場合も珍しくありません。

家族が病院受診に付き添わない場合は、生活相談員が事業所に残り、状況整理と記録の確認を行います。

万が一、受診先に家族が来た場合に備えて、病院受診に同行する職員に対し、家族へ伝達するべき内容を整理して、告げておくことも必要です。

病院受診後

病院受診後は、受診結果を家族に伝えます。

その際は、もう一度改めて、利用者本人に痛い(辛い)思いをさせてしまったこと、家族にご心配とご迷惑を掛けてしまったことに対する謝罪を行います

そして、必要があれば保険請求などの手続きや、今後の段取りについて説明を行います。

施設で加入している保険内容については、事前にしっかりと確認しておきましょう。

この場面でよくある間違いは、謝罪の勢いで「もう絶対に事故を起こしません」「常に見守りを行います」などといった、「今後の事業所としての対応」をその場で発言してしまうことです。

もし家族から問われた場合においても、すぐに言及せず、「事業所としてもう一度状況を精査し、後日お伝え致します」といったお返事に留めましょう。

家族へ「できもしない対応」を誤って伝えてしまう可能性を未然に防ぎ、「個人ではなく組織としての対応している姿勢」を印象付けることに繋がります。

身元引受人(キーパーソン)と緊急連絡先が違うケースの留意点

実際のケースでは、「身元引受人(キーパーソン)」は会社勤めをしている長男で、「緊急連絡先」はその妻といった場合が存在します。

利用者本人に関わる重要な意思決定権は「身元引受人(キーパーソン)の長男」にあり、「緊急連絡先の妻」にはないことは少なくありません

このような場合は、「緊急連絡先の妻」だけで電話連絡を終えず、「身元引受人(キーパーソン)の長男」 へも併せて電話連絡を行う必要があります

特に、「怪我の程度が大きい場合」や「過失による補保険請求が必要な場合」で連絡を怠ると、「ないがしろにされている」「蚊帳の外に置かれている」というネガティブで不誠実な印象を与えてしまいます。

「緊急連絡先の妻」へ電話連絡する際には、「ご長男様に対しても事故の状況についてご説明し、お詫びしたいと思います。こちらから改めてご連絡差し上げることを、お伝え願いますでしょうか?」などと、一言添えるのが良いでしょう。

身元引受人(キーパーソン)の都合に合わせて直接アプローチすることが、誠意を持った対応を印象づける効果に繋がります

重要な局面で「身元引受人(キーパーソン)」を軽視しないよう、十分注意して対応しましょう。

家族と日常的に接点を持つことの大切さ

最後になりますが、私が生活相談員として最も大切だと考えることは、「家族と日常的に接点を持つこと」です

特に最近の特養においては、コロナ禍による面会制限などにより、家族との接点は以前に比べて少なくなりました。

このような時代だからこそ、「家族と日常的に接点を持つための工夫」が必要になってきます。

具体的な工夫としては、「別件(申請や書類手続きなど)で電話連絡した際に、併せて生活状況を伝える」「小さな体調変化(発熱・食欲不振など)があった際でも電話連絡する」「行事や誕生会などの写真や手紙を送付する」などが挙げられます。

また、「オンライン面会(画面越しに本人と対面)」において、視覚的に状況を理解して貰うことも有効な手段です。

どの場面においても、ネガティブな状況である「課題と感じているケア」「今後の起こりうる事故(リスク)」なども併せて、家族へ伝える必要があります。

「家族と日常的に接点を持つこと」は、家族が利用者本人の生活状況をアップデートし、事故が発生してしまった場合でも、「そんな状況とは知らなかった」「なんでもっと早く教えてくれなかったの?」といったネガティブな感情になってしまうのを防ぐことに繋がります。

また、本人に対する家族の想いを共有し、事業所の真摯な姿勢を伝える機会にもなります。

つまり、「家族と日常的に接点を持つこと」こそが、事故対応を円滑にする一番の近道と言えるでしょう。

生活相談員は、事故発生時の場面において、利用者や家族の気持ちに寄り添いつつ、介護の現場や事業所を守る対応が求められる重要な役割です。

今回の記事を参考にし、みなさんの業務に活かしていただけたら幸いです。

最後までご覧いただき、ありがとうございました。

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