
みなさんどうもこんにちは。
元介護士で、現役ソーシャルワーカー×心理師の「てんぱまる@tenpa_mal」です。
介護給付の増大と介護人材の不足が深刻化するなか、介護現場に生産性向上を求める声が高まっています。
令和3年末には政府の「規制改革推進会議」において、テクノロジーの利用等による「特定施設の人員配置基準の柔軟化」の提案があり、令和4年度には実証事業が行われることになりました。
ICT導入により生産性向上を図ることは必要です。
しかし人員配置基準の見直しだけが独り歩きし、介護現場に混乱をもたらすことは避けなければいけません。
この記事では、施設における人員配置基準の柔軟化をめぐる経緯と、「人員配置基準見直しに必要な視点」についてお伝えしていきます。
施設で働くみなさんが、目指すべき介護現場のイメージを持てるようになり、今後の仕事で活かせる内容となっています。
最後までご覧ください。
結論
はじめに結論からお伝えすると、人員配置基準見直しに必要な視点は下記の4つです。
- 介護は高度な対人援助サービスであり、モノづくりで培われた生産性向上のノウハウはそのまま当てはまらない
- 介護職員の削減はケアの質の低下や職場環境の悪化に繋がる可能性が高く、単純な人減らしを目的としたものであってはならない
- 生産性の向上は「事業者の利益」ではなく、「利用者が受けるケアの質が高まること」や「職場環境改善(職員の処遇改善・職場の魅力アップ)」で実を結ばなければならない
- 多種多様な条件下で成立している人員基準を、すべての介護施設へ一律に適用すべきではない
これらの視点がおろそかになれば本末転倒となり、介護の現場は崩壊します。
生産性向上という言葉の一括りにせず、「なぜ人員配置基準の見直しが必要なのか」といった部分を掘り下げて明確にしておくことが必要なのです。
民間事業者の提案がきっかけ
「なぜ?」という部分を明確にするためには、「どのような経緯で人員配置基準の見直しが提案されたのか」について知っておく必要があります。
令和3年12月20日「介護施設における介護サービスの生産性向上及び医療アクセスの向上」などを議題とする「第7回規制改革推進会議(医療・介護ワーキンググループ)」が開催されました。
規制改革推進会議とは、内閣府設置法に基づき設置された審議会。内閣総理大臣の諮問に応じ、経済社会の構造改革を進めるうえで、必要な規制のあり方の改革に関する基本事項を総合的に調査・審議することが重要が主務。
会議では全国で介護事業を展開する事業者が、「デジタルテクノロジーや介護補助者・外部委託などを活用したサービス品質向上と介護職員の負担軽減の両立を目指すプロジェクト」などが紹介されました。
その紹介のなかで述べられた「現行の人員配置基準である『3:1』より少ない『4:1』を目標とする」という提案が、人員配置基準の見直しについて話題となったきっかけです。
あわせて「介護付き有料老人ホーム」の人員配置基準見直しも提案され、先進的な事業者から規制を緩和しつつ、モデル事業を通じて全国展開することや、国の関与の下で実証事業を行う必要性についても意見が述べられました。
するとその翌日「現行の人員配置基準を見直し、1人で4人に対応できるようにする案を軸に調整している」「古い規制を見直して生産性を向上することで、費用の拡大を抑える重要性は高まっている」と新聞で報道されることになり、大きな反響を呼びました。
「4:1」への異論が続出
新聞報道後よりこの提案・意見があたかも既定路線かのように報じられてしまったことで、関係者より下記のような異論が続出しました。
・合理化は推進しなければならないが、「4:1」に移行するのは現時点で非現実的である
・暴論以外のなにものでもない
・シフトが組めるとは思えない
・ケアの質が担保されるか疑問が残る
・人との関わりを機械に置き換えることはできない
・研修・委員会・会議・防災訓練・利用者の外出・イベント・清掃・希望休や有給の取得などが客観的に評価されていない
・魅力のある介護現場に繋がらない
これらの異論を踏まえて、令和4年2月7日の「規制改革推進会議(医療・介護・感染症対策ワーキンググループ)」では「持続的な介護制度の実現」をテーマに、人員配置基準の柔軟化についての意見等が提出されました。
そこでは「産休・育休取得・短時間勤務が進められるなかで、臨時的に職員が不足するケースも増えていること」「このような現実を踏まえたうえで、長期的にケアの質が担保されるのかを考える必要があること」「大切なのは職員が意欲を持って働ける環境を整えること」などの声があがりました。
また厚生労働省は令和4年4月頃から「公募に応じた施設で効果検証」を行い、時期報酬改定に活かす方針を示しました。
介護の成り手不足が深刻であるなか、「4:1」に移行する提案はあって然るべきことです。
しかし介護現場は効率一辺倒で行えるほど簡単ではないことは、言うまでもありません。
客観的な検証を通じた実現可否の検討
同ワーキンググループは、全国老施協などへのヒアリングを踏まえて、現時点で整理した内容を「先進的な特定施設(介護付き有料老人ホーム)の人員配置基準について(これまでの議論のとりまとめ)」として令和4年2月17日に公表しました。
※議論の詳しい内容についてはこちらをご覧ください。
内容を取りまとめると「見守りセンサー」「ロボット」「ビッグデータ」などを使って業務を効率化しつつ、人員配置基準を緩和する構想について「今後の介護人材不足の解決に向けた有力な方策の一つとなる可能性がある」といったものです。
一方では「介護の質の維持と介護職員の負担軽減・処遇改善を最も重要な観点」とし、「実際に介護の質が維持されること及び介護職員の負担増に繋がらないことが客観的に検証される必要がある」とも指摘しています。
また介護施設は運営事業者や施設の規模・利用者の要介護度等によって必要な人員数はさまざまであるため、現行の人員配置基準を施設の種類等によらず一律に変更することは現実的ではありません。
よって「特別養護老人ホーム」「介護老人保健施設」「グループホーム」「(介護付き)(住宅型)有料老人ホーム」「軽費老人ホーム」など、施設の実情に合わせた人員配置基準を定めることが必要となります。
同ワーキンググループで公表した取りまとめは、「介護現場の慎重論」を反映した形のようです。
しかし、先進的な取り組みを行う事業者には「配置基準の特例」を認め、これらの取り組みを順次全国へ展開していくことも必要なアプローチとなります。
フットワークの軽い民間の有料老人ホームを突破口とすることで、他の施設に広める動きにも繋がることも期待できます。
厚生労働省に対しては、これらの実証事業の結果なども踏まえながら、慎重かつ大胆に実現の可否を検討していくよう求めたいところです。
魅力ある職場を目指すには
現状を見渡すと、人員配置基準以上の職員を配置している施設がほとんどです。
実際に従来型特養(定員80名)の人員配置の全国平均は「2.12:1(全国老施協による令和元年度収支現状等調査より)」であることがわかっています。
これを現状の基準である「3:1」まで変化させることができれば、生まれた時間で利用者とより深く関わることができるようになります。
要するに、施設で働くわたしたちには、「介護現場の生産性向上は、介護の魅力をより高めるための手段である」といった思考を持つことが求められると言えるでしょう。
わたしが生活相談員として仕事をするなかで介護現場から聞こえてくる声の多くは、「時間がない」「人が足りない」「忙しい」といった内容の話です。
しかし「どの時間に、あと何人職員が必要ですか?」といった質問に対して明確に答えることができる職員は多くありません。
特に介護現場のリーダーや主任などの中間管理職は、自分の施設やユニットにかかる「人員配置の根拠」について、明確に答えることができるのが望ましいでしょう。
介護給付の増大や人材不足の深刻化と合わせて、ユニットケアや小規模ケアが主流になるなど、ケアシステム自体も大きく変化しています。
その変化に対応するためには「期待される介護スタッフ」のあり方も変化しています。
少ない人材で利用者のニーズに応えるためには、「今できる事やすべきことは何なのか」を自分の頭で考え、行動ができるスタッフが求められるのです。
そのために必要なものはスタッフ一人ひとりの「自律」です。
つまり魅力ある職場を目指すには、機械に頼るだけではなく「スタッフ一人ひとりが自律を目指すチーム作り」が必要となるのです。
まとめ
- 介護は高度な対人援助サービスであり、モノづくりで培われた生産性向上のノウハウはそのまま当てはまらない
- 介護職員の削減はケアの質の低下や職場環境の悪化に繋がる可能性が高く、単純な人減らしを目的としたものであってはならない
- 生産性の向上は「事業者の利益」ではなく、「利用者が受けるケアの質が高まること」や「職場環境改善(職員の処遇改善・職場の魅力アップ)」で実を結ばなければならない
- 多種多様な条件下で成立している人員基準を、すべての介護施設へ一律に適用すべきではない
上記4つの視点を持ちながら、「ICTの導入」+「スタッフ一人ひとりの自律」を行うことが、魅力ある職場作りに繋がります。
繰り返しになりますが、ICT導入による生産性向上を図ることは必要です。
しかし人員配置基準の見直しだけが独り歩きし、介護現場に混乱をもたらすことは避けなければいけません。
今回の記事で「人員配置基準見直しに必要な視点」が養われ、みなさんの業務に活かされることを願います。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。
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